室住 淳一

室住 淳一

デジタルトランスフォーメーション ビジネスユニット
BIセクター長
執行役員 プリンシパル

実用段階に達したAIの可能性を
バリューチェーン改革に活かす

 機械学習や深層学習といった技術の進化により、AIは実用段階に達したと言われています。しかし、それは本当に使えるものなのでしょうか。また、企業がAI技術を自社のビジネスに取り入れ、競合他社に対する差別化要素として活かし、バリューチェーンを変革していくためには何が必要になるのでしょうか。

AI技術の成熟度を見極めるためには、常に最先端の研究成果に接していることが大切であると、アビームコンサルティングの室住淳一が語ります。

仮説そのものを発見的にあぶり出し
自律的に学習を続け精度を高める

 現在、動向が最も注目されているテクノロジーのひとつがAI(人工知能)です。なかでも近年大きな進化を遂げたのが、機械学習(マシンラーニング)と呼ばれているものです。この技術が革新的なのは、単にデータを分析するだけにとどまらず、仮説そのものを発見的にあぶり出し、自律的に学習を続けながらその精度を高めていく点にあります。
 衝撃的だったのは、Google子会社の英DeepMind社が開発した囲碁AIの「アルファ碁(AlphaGo)」が、世界最強とされていた韓国のプロ棋士イ・セドル氏に打ち勝ったというニュースです。囲碁の終局までの手順はおよそ“10の360乗通り”とされており、仮に最新のスーパーコンピュータを駆使したとしても、単純な全件探索の手法では処理スピードが追いつかず、プロ棋士には歯が立ちません。
 こうしたことからコンピュータが囲碁で人間に勝つには、まだ10年はかかるとされてきました。ところがアルファ碁はこの予想を覆したのです。
 DeepMind社の研究者たちは、3000万件を超えるトップ棋士の打ち手のデータを集め、さらにソフトウェア同士を競わせて学習を重ねさせていきました。結果、囲碁の定石や常識を超える、思いもよらなかった新手を編み出し、ついにトップ棋士をも倒すことができるソフトウェアを育成するに至りました。

さまざまなビジネスで実用が始まる
機械学習や深層学習を中心としたAI

 囲碁や将棋などゲームの世界だけではありません。機械学習や深層学習を中心とするAIは、さまざまなビジネスですでに実用が始まっています。
 例えばある生命保険会社では、難易度の高い支払い審査業務にAIを活用し、ビジネスの効率化・迅速化を図っています。年間数百万件の請求データをAIに学習させた結果、ソフトウェア自体が請求内容を理解し、調査ポイントを推定することが可能となり、審査業務の担当者に対して過去の類似事例と判断材料を提示しています。ちなみに、その正答率は90%程度まで向上しているとのことです。

 法律や会計などの分野でも、最新の論文や事例、判例などを早急に吸収していく必要がありますが、専門家といえども、一人の限られた能力でそのすべてを把握するのは困難な状況にありました。そこにAIを活用することで、必要な情報にアクセスするハードルを下げ、最新情報に基づいた、より適切な判断を下せるようにしています。 医療の領域でも、AIの活用が急速な勢いで進んでいます。

例えばガン治療を目的としたゲノム解析では、スーパーコンピュータの進化によってすでに約250万個の変異の候補が発見されています。しかし、その中から患者個人のガンの原因となっている特定の遺伝子を絞り込むのは、人智・人力を超えた世界となります。
 そうしたなか東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターでは、クラウド上の知識ベースに登録されている2400万件以上の生命科学に関する論文をAIに読み込んで学習させるというアプローチを推進しています。これにより最終的な標的となるガン遺伝子の候補を数個にまで絞り込むとともに、それに合わせた治療薬の提案を行います。実際に血液および消化器のガンについて、このシークエンスを適用するため、東京大学医科学研究所の附属病院において臨床試験が始まりました。

 ほかにも自動車の自動運転や株式市場の超高速トレーディングなど、期待が高まるAIの応用分野は枚挙にいとまがありません。

「なくなる仕事」を補って余りある
新たな可能性を人間に提示

 もっともAIに対して予想されているのは、必ずしも華々しい未来だけではありません。企業の現場からも「簡単に悪用されるのでは?」「実証実験が多い割に実績に結びつく例は少ない」といった声が聞かれます。またAIに対する不安の中で最も大きいのが、米オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授による「AI(もしくはAIを実装した機械)によって奪われる“なくなる仕事”」ではないでしょうか。

 オズボーン准教授は人間が現在従事している仕事の半数近くが、今後10~20年のうちにAIに取って代わられると示唆しています。あくまでも米国の労働市場を想定したものですが、小売店販売員、会計士、一般事務員、セールスマン、一般秘書、飲食カウンター接客係、商店レジ打ち係や切符販売員、箱詰め積み降ろしなどの作業員、帳簿係などの金融取引記録保全員、大型トラックの運転手、コールセンター案内係、乗用車/タクシーの運転手、中央官庁職員など上級公務員、シェフの下で働く調理人、ビル管理人などが、なくなる仕事の上位にランキングされています。

 人間がまったく不要になるとは考え難いにせよ、AIがこれらの仕事のかなりの部分を担うようになり、労働力に対する需要が減少していくことは、もはや避けられない時代の流れとして受け止める必要があります。
 ただしAIは、こうした“なくなる仕事”を補って余りある、新たな可能性を人間に提示していることを忘れてはなりません。そもそも仕事は個人の安定のためにあるわけではなく、何らかの価値を生み出してこそ成り立ちます。多くの人が苦役と思っている仕事をAIが代替してくれるとするならば、それはむしろ喜ぶべきものであるはずです。

 先に紹介したいくつかの例のように、AIは人間よりはるか大量のデータを処理し、より効率的なやり方で有益な洞察を見出すことができます。人間の専門家にもできなかったことをAIが後押ししていくことで、人間のさらなる創造性の発揮を促し、革新的なバリューチェーンを築いていく可能性があります。

AIを取り入れたコンサルティング手法で
即効性の高い施策を短期間で実施

企業がAIの価値を正しく見極め、自社のシステムに取り込んでいくためには、AIの基礎研究に直接触れる機会を設けることが重要です。研究機関やアカデミア、スタートアップとの交流、ICML(機械学習学会世界大会)など国際学会への参加を通じ、最先端の研究成果に触れることで、技術の成熟度を確かめることができます。

 例えば新しいAI技術のエラー率が30%という研究報告を受けたとき、ある企業は「70%も正答率を得られるのはすごい」と前向きに評価する一方、別の企業は「30%も間違ったのでは使い物にならない」と否定的な評価を下すかもしれません。
 こうした技術の成熟度に対する判断は、常に生の情報に接していないと困難なのです。その上でAI技術を積極的に活かすための応用研究を、他社に先駆けて進めるべきです。

 この大きな潮流の中で、アビームコンサルティング自身もコンサルティング業務にAIを活用するための研究を開始しています。
 現在のコンサルティング手法は、定義されたビジネス命題に対して仮説を設定し、それを裏付けるデータを収集・分析し、施策を策定・計画し、実行するというサイクルを繰り返します。しかし、そのプロセスではコンサルタントによる恣意性が発生する恐れがあり、仮説の出来・不出来が結果を大きく左右してしまいます。

 そこでコンサルティングのプロセスに機械学習や深層学習の技術を取り入れ、システム自身にデータの収集や仮説の探索を行わせようとしています。このAIコンサルティング手法により、コンサルタントの恣意性を極力排除するとともに、より即効性の高い施策をより短いサイクルで実施することが可能になると考えています。
 例えば顧客のロイヤリティ管理では、「なぜ顧客が解約するのか?」(Why)という課題の問いかけに対して、AIがその根本原因を特定します。また、解約しやすい顧客(Who)をあらかじめ予測してターゲティングを行い、先手を打った対処を可能とします。
 機械学習や深層学習に基づいた判別力の高い変数(仮説)を、ファクトベースの大量データの中から効率良く探索し、バリューチェーンのさまざまな命題に適用するなど、コンサルティング手法のひとつの方向性として、AIの可能性に着目しています。

  • 室住 淳一

    室住 淳一

    専門分野
    • BI・デジタル戦略策定
    • DWH、BIツール導入
    • アナリティクス
    実施プロジェクト
    • 大手国内事業会社におけるデジタル戦略策定コンサルティング
    • 大手国内金融機関におけるDWH・BI基盤導入コンサルティング
    • 大手事業会社におけるIT戦略策定・実行コンサルティング