橘 知志

橘 知志

デジタルトランスフォーメーションビジネスユニット
IoTセクター
ディレクター

デジタルで付加価値を生み出す
日本の製造業のサービス化戦略

 モノづくりを取り巻くビジネス環境は大きく変わりつつある。ドイツの「インダストリー 4.0」や米国の「インダストリアル・インターネット」に象徴される新たな産業革命により、製造業のサービス化が加速しています。

 この時代の変化に日本の製造業も否応なく直面しています。そこにいかなる付加価値を見出し、グローバル競争を勝ち残ることができるのでしょうか。IoTセクターで活動する橘知志、安藤有紀、渡部敦史の3名が語り合いました。

良いモノを作るだけでは通用しない
日本の製造業が直面する課題とは

――日本の製造業もIoTへの取り組みを加速させていますが、そこにはどんな課題がありますか。

橘 現時点における日本の製造業の取り組みの多くは、モノづくりのためのIoTです。品質を向上するため、コストを削減するためなど、従来からの改善活動の延長線でしかありません。
 自分たちが今後、「何で儲けていくのか」を考えたとき、それだけでは十分と言い切れません。デジタル活用のさらなる進化、すなわち「製造業のサービス化」が求められているのです。

安藤 これまで「良いモノを作る、効率的に作る」に特化してきた日本の製造業が、海外企業との競争も含めて改めて自分たちの付加価値とは何かを考えたとき、その方向性をなかなか見出せていないのが現状ではないでしょうか。

橘 世界の動きを見ると、例えば米GE社はインダストリアル・インターネット、アドバンスト・マニュファクチャリング、グローバル・ブレインを3つの柱とする事業戦略「The Future of Work」のもと、ハードウェア主体のテクノロジーカンパニーからハードウェア+ソフトウェアのソリューションカンパニーへの転換を図っています。
 一方でドイツも、国家を挙げての「インダストリー 4.0」のもと、シーメンス社や
BMW社などの製造業が中心となり、デジタルによるサプライチェーンやバリューチェーンのネットワーク化を進めています。今後のグローバル市場で彼らとどう競い合っていくのか。日本の製造業にはかつてない危機感が高まっています。

渡部 ただ危機感だけではなく、一方で期待が高まっているのも事実です。外郭団体の活動を通じて、中小から大手までさまざまな製造業の方々と話す機会が多いのですが、「自分たちもデジタルで第一人者になれるチャンスがまだまだある」という熱い意気込みを強く感じています。

高い感度を持つ企業や技術者をマッシュアップ

――危機感と期待感を併せ持つ日本の製造業にとって、どんな起死回生の策がありますか。

橘 日本のモノづくりの現場には、グローバルの動きに対して高い感度を持った人たちがたくさんいます。だからこそ、たとえ規模は小さくとも特殊な部品で世界のトップシェアを握っている製造業が多いのです。

渡部 そんな日本の製造業の潜在力を、どうすればサービス化の領域で発揮させることができるのか。それぞれの企業が単独で取り組むのは難しいため、連携と協創のスキームが欠かせません。
 多様な技術やノウハウを持った製造業が手を組み合うことで、そこから新たな価値を見出せるのではないかという気がします。実際、さまざまな製造業と接する中ですごいと感心するのは、
 ライバル企業にさえ“手の内”を明かしていることです。デジタルの取り組みを通して、お互いの強みを学び、自らの課題・改善点を発見し、前進していこうという懸命な姿勢を示しています。

橘 大手の製造業の中にも同様の動きがありますね。日本のモノづくりの現場には、企業や役職の垣根を越えて、技術者同士が共通の肌感覚、共通の言葉で話し合える土壌があるようです。
 例えば世界最大手の自動車部品メーカーが取り組む“従来の延長線上にない超スマートな工場を実現するIoT戦略”を、関連企業の自動車メーカーが学び、自分たちの基盤づくりに活かす。さらに、その動向を異業種の電機機器メーカーもとらえて、同様の展開を提唱するといったように、大手メーカー同士が水面下で緩やかにつながっているケースはけっこう多いです。

安藤 私もそう思います。高い感度を持った企業あるいは技術者をマッシュアップしていくことが、日本の製造業の起死回生になるのではないでしょうか。裏を返せば、それ以外に日本の製造業がサービス化を軸とした今後のグローバル競争で勝ち抜いていく術はないのかもしれません。

橘 ただ、現実問題として国家レベルの全面的なバックアップを受けたGEやシーメンスといった巨人企業を相手に、正面切ってプラットフォームビジネスを仕掛けても、勝てる見込みはかなり厳しいと言わざるを得ません。

安藤 個人的には、競う領域はプラットフォームでなくてもかまわないのではないかと思っています。あえて彼らのプラットフォームに乗っかり、そのエコシステムの中で勝負していくという戦略もあります。
 例えば日本の熟練技術者が持つ“匠の技”をデジタルで展開できたら、非常に競争力の高いコンテンツになると思います。

ニッチな領域にも攻め所はある

――とはいえ、プラットフォームビジネスから完全に逃げるわけにはいかないと思いますが。

橘 もちろんです。グローバルなサービス化の市場において、日本の製造業が今後も存在感を発揮し、主導権を掴んでいく上でも、サービス提供のプラットフォームを押さえることは必須条件です。

渡部 プラットフォームビジネスというと、どうしても市場規模の大きい分野で先行したいと考えがちですが、実はもっとニッチな領域にも攻め所はあります。

橘 例えばどんな取り組みがありますか。

渡部 私が注目しているのは、人の身体動作をとらえるセンサーを活用したIoTビジネスです。ある大手製造業の技術者が社内ベンチャーとして企画を立ち上げ、事業化しようとしているユニークな取り組みです。
 当面のターゲットはアスリート支援やヘルスケアを目的としたウェアラブルデバイスの製品化ですが、いずれは生産現場や整備現場における工程管理や労務管理、健康管理など、幅広い分野でのサービス化が期待されています。

橘 その意味では、エプソン販売様の「スマートチャージ」も注目すべき成功事例です。これまで売り切りが中心だったビジネスプリンターのビジネスモデルを、商品とサービスを融合させたIoT型課金ビジネスモデルに転換しました。

安藤 これまで日本企業はアイデアをカタチ(事業)にするのが苦手と言われてきましたが、決してそんなことはなく、新しい芽がどんどん出てきています。

“攻め”の姿勢の先にこそ
製造業のサービス化への展望が開ける

――そうした日本の製造業の改革を支えていく存在として、アビームコンサルティングをはじめとするコンサルティングファームにはどんな役割が求められるのでしょうか。

安藤 先ほど、モノを作って売ることに特化してきた日本の製造業は、自分たちの付加価値をなかなか見出せないでいると言いました。
 そこで必要なのは、まず大きなコンセプトを打ち立て、そこに到達するまでのストーリーを描き、さらに それを具現化するシナリオを組み立てることです。この一連の試行錯誤に多くの関係者を巻き込み、既存の業務プロセスではつながっていなかった人やノウハウをつなぐことで、世間が納得する付加価値を見出す必要があります。製造業の内側にいると、かえって自分たちの特長を強みとして認識できないだけに、業界の外側からの視点に学び、多様な知見や価値観を取り入れていくことが大切だと思います。

渡部 そのとおりです。実際、初めから明確なビジョン・付加価値を見出し、ビジネスを始めるということは難しいと思われます。
 例えば民泊マッチングで世界を席巻したAirbnbも、もともとは「部屋を貸してお金を得ながら友だちを作る」というアイデアから創業し、サービスを発展させてきました。企業に気づきを与えるテクノロジーや協創の場を提示し、背中を押すことが、これからのコンサルティングファームにも期待されています。

橘 こうして話し合ってみて、改めて痛感するのが、現在のポジションを守るだけでは活路を見出せないということです。
 お客様の課題解決をサポートするアビームコンサルティングの根幹は変わらないにせよ、“攻め”の姿勢を促すビジョンをより積極的に提示していく必要があります。その先にこそ、製造業のサービス化への展望が開けてくるはずです。